2012年3月2日金曜日

「習ってない漢字を使うな」という指導

こんな記事が目に入ったのでつい。

NEWSポストセブン|「習ってない漢字使うな」指導で自分の名前を書けない子供も
<最近、自分の名前であっても学校で習ってない漢字を使ってはならないと先生が指導するという。おかしい。だって名前の漢字はすべて学校で習うとは限らない。ならばいつまでも自分の名前は漢字で書けない。名前は親が指導し、学校では友達の名前を読めるように指導すべきと思う>
立命館小学校副校長で大阪府教育委員も務める陰山英男さんがツイッターに書き込んだつぶやきが、大きな議論に発展している。あまりの反響の大きさに、陰山さん自身驚いているようだ。
「ツイッターでは、大阪府の教育基本条例の問題なども取り上げているのですが、漢字と名前の問題の反響はそれよりはるかに大きいものでした。あまりにも多数の声が次々に届くので、何かの間違いではないかと思ったくらいです」
反響の理由を、陰山さんはこう分析した。
「保護者の声で最も多かったのは、書ける漢字を書かせないという“ブレーキをかけること”への反発でした。この問題に保護者がここまで熱くなっている背景には、学校への不信があります。これまで教師がよかれと思って指導してきたことが、保護者目線で見るとズレていることがあるんです」
「漢字と名前」問題が浮き彫りにした、いまの学校教育の問題とは──
例えば「陰山英男」さんが新入生として小学校に入学したとしよう。最初は漢字を習っていないので、すべて平仮名で「かげやまひでお」。1年生のうちに「山」と「男」を習うので「かげ山ひで男」と書くよう指導される。4年生になると「英」の字を習い「かげ山英男」と書くが、「陰」の字は小学校卒業まで書かないことになる。これが名前の「交ぜ書き」だ。
ツイッターで指摘しているとおり、子供が漢字で自分の名前を書けるにもかかわらず、「平仮名に直せ」と指導されるケースが少なくないことがわかった。つまり、子供は「陰山英男」と書けるにもかかわらず、「かげ山」と書きなさいと教えられていたのだ。東京都在住のAさん(44才・主婦)がいう。
「子供には“小学校に上がる前に漢字で名前が書けるように”と漢字を覚えさせ、子供も名前を漢字で書けるようになったことで自信がついたのか、学校に行くのを楽しみにしていました。ところがある日、『習ってない漢字は平仮名で書かなきゃダメなんだって』とションボリして帰ってきたんです。思わず“ダメってどういうこと? 自分の名前なのになんで漢字で書いちゃいけないの?”と声を荒らげてしまいました」
さらに、学校や教師によって漢字がOKだったりNGだったりすることで、ますます混乱してしまう子供や保護者もいる。
「うちの名字は『清水』で、息子は全部漢字で書けます。でも2年生で習っているのは『水』の字だけなので、それに従うと『し水』と書かなければいけないことになる。担任の先生は息子が名前を漢字で書いても『平仮名に直しなさい』とはいわないそうですが、書写の先生には『平仮名に直しなさい』といわれてかなり戸惑っていました。
最近では先生の顔色を見ながら『清水』『し水』を書き分けているようですが、どうして子供がそんな気を使わなくちゃいけないのか。せめて学校内で統一してほしい」(39才・主婦・東京都)
※女性セブン2012年3月15日号
http://bit.ly/zF6amG

「そういう先生もいる,ぐらいが本当なんだろうけどなあ」
 というのが率直な感想なんですが,実際のところはどうなのかわかりません。
私の周りの先生たちの多くが,たまたま記事には当てはまらないだけなのかもしれません。

だからと言って「これだからマスコミは…」と,こんなところでマスコミの針小棒大を嘆いてみても不毛なだけです。
どこに問題があるのかな,と考えてみました。


子どもたちを担任してすぐの頃,子どもたちがこんなことを聞いてきました。

「名前に,習ってない漢字も書いていいですか」

ちょっと意地悪ですが,逆に聞き返しました。

「どう思う?」

子どもたちは「あかんやろ…」とか「ええんちゃう?」などと言っていたのですが,中にはこんな風に言う子もいました。

「○○先生(去年の担任)は書いたらあかんって言ってはったで」

「いや,△△先生(去年の担任)は書いてもいいって言ってた」

まさに,記事にあるような「混乱」です。
東京都の主婦の言葉にあるように,「せめて学校内で統一してほしい」と言いたくなるのもわかりますよ。

子どもたちはそれまで「〇〇先生の言ったことだから」「△△先生の言ったことだから」と必死に守ってきたのでしょう。先生の言葉が子どもに与える影響の大きさを感じます。
ところが残念なことに,「先生がそう言ったから」という以上の理由はないんですね。あるいは理由なんかなくても「先生が言うことなんだから絶対に守らないと」と,忠実に従ってきたのかもしれません。あるいは心の中では違うことを思っていても「先生の言うことを聞かないと怒られるから」と,しぶしぶ従ってきたのかもしれません。

実際には「名前には,習っていない漢字を使ってはいけません」という指導をする場合にも,その理由があるはずです。
たとえば「習っていない漢字で名前を書くと,他の人が読めなくて困るから」というもの。たしかに,子どもどうしでノートを配ったり互いの作品を鑑賞したりするときには,名前をスラスラと読めた方が便利です。
あるいは「習っていない漢字を,間違えたまま覚えてしまうことがあるから」というもの。人間の思い込みというのはなかなか強いもので,一度覚えた漢字の形や画数などはなかなかすぐに直せるものではありません。就学前に家の人に教わっていても,何度も書いているうちにいつのまにか勘違いして,へんとつくりが逆になっていたり,大きさのバランスがヘンだったり,ということもありますね。

子どもに,これらの理由を完全に理解させるのは難しいと思います。
しかし,教師が「名前には,習っていない漢字を使ってはいけません」と言うときに,その理由を説明するのとしないのとでは全然違います。「先生の言うことだから」と黙って従う子どもと,「ちょっと難しいけど,ちゃんと訳があるのね」と(それなりに)納得して従う子ども。家の人に「どうして名前を漢字で書いたらだめなの?」と尋ねられたときにも,きっと反応が違うはずです。


話が長くなりました。

「名前には,習っていない漢字を使ってはいけません」という指導が悪いわけではありません。
ただ,子どもが「使いたい」と思うものを「使ってはいけない」というのであれば,それなりの「指導上の意図」や「理由」をきちんと伝えるべきです。
そういう手間をかけずに,「先生(大人)の言うことだから」というような「ねじ伏せ型」の指導や,「みんながそうしているから」というような「無思考型」の指導を続けていると,こんな記事になってしまうのだろうな,と思いました。


私は「名前には,習っていない漢字を使ってはいけません」とは言いません。
友だちが困らないようにフリガナを書けばいいし,字を間違えて覚えていたら教えればいい。そう考えるからです。






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2 件のコメント:

  1. 大変興味深い内容です。確かに学校での漢字は書けても、周りの子が読めないので支障が出るというのは、御尤もなんですが、私はそれでも書いた方が、最初が支障が出ても差ほど大した問題でもないと思いますし、周囲の子も覚えるきっかけになるかもしれません。

    田中先生のように、理由付けで説明されるというのは、非常にイイ指導に感じます。
    物事には、何でも「理由が有ってこうしている。」というのが社会人になっても多々経験する事です。
    未来ある子供たちにも、その辺の理由を探せるような大人になってもらいたいですね!
    何でも経験から得られるものも大きいですし。

    偉そうなこと言って申し訳ありません。
    先生側の視点として、大変参考になりました。

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    1. 匿名さま
      コメントありがとうございます。返信が遅くなって申し訳ありません。

      どんな子どもも「勉強したい!」と鼻息も荒く入学するわけです。しかし,数か月後に「漢字の勉強イヤや…」とか「算数の勉強イヤや…」と言い出す子どもがいるのも事実です。彼らのモチベーションを削ってしまう原因のひとつが,もしかしたらこんなところにあるのかも知れませんね。

      子どもの「やりたい!」が学習に繋がるもので,かつ私の努力で何とかフォローできるものなら,できるだけやらせてやりたいと思っています。

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