2012年2月21日火曜日

いじめが始まるとき その2

「最近の子どもは加減を知らない」

そんな言葉を耳にすることがあります。
昔の子どもだってよくケンカもしたし,悪いこともした。だけど「これはやったらあかん」ということだけはわかっていた。越えてはいけない線を知っていた。年上も年下もみんなで一緒に遊んでいたから,必然的に小さい子や弱い子をかばっていた。云々。

「最近の子ども」に限った話なのかは知りませんが,「子どもが加減を知らない」ということは実感します。しかし教師としては「子どもが加減を知らない」と嘆いていても仕方ありません。前回の記事を書くときにはそんなことを考えていました。


前回の記事の内容を,もう少し具体的にしてみます。

たとえばAとBでプロレス遊び(古い?)なんかをしているとき。
技をかけられたBが「痛い痛い!」と叫びます。プロレス「遊び」ですから,技をかけているAはそれでも遊んでいるつもり。「痛い痛い!」の声も遊びのうち。
そのうちBが泣いたり,後になって先生に訴えたりして,Aはこんな風に聞かれます。

「なんでそんなことしたの」

Aにとってそれは遊びでした。Bを傷めつけてやろうとか,痛い目に遭わせてやろうとか,そういう気持ちでいるわけではありません。Bにとっても"はじめは"遊びだったのかもしれません。
だからAはこう言います。

「遊んでただけ」


こんなとき,教師はどう指導すればいいのでしょう。

「○○の技まではいいけど,△△の技はやめておこう」とか「□□の技をするなら力を抜こう」というように,「加減の仕方」をAに教えればそれでいいのでしょうか。
もちろん違います。そもそもそんなことは不可能です。
プロレス技だけでなく,「していいこと」「してはいけないこと」をひとつずつ区別するのには限界があります。たとえば「肩をたたく」。

「おはよう!」と肩をたたく。
「やだーやめてよー」と照れながら肩をたたく。
「肩こってますねえ」と肩をたたく。
「お前なんか嫌いだ」と肩をたたく。

それぞれにたたく手の形や強さは違うでしょうが,それらをひとつずつ区別して「これはOK」「これはダメ」なんて言うのは不可能です。


実際にはもう少し現実的な指導をすることになります。
それが「自分がされて嫌なことは,相手にもしない」というものです。

「おはよう!」と肩をたたかれる → 嫌じゃない
「やだーやめてよー」と照れながら肩をたたく → 嫌じゃない
「肩こってますねえ」と肩をたたく → 嫌じゃない
「お前なんか嫌いだ」と肩をたたく → 嫌だ

確かにこの決まりに従えば,ひとつずつの行為に対して「していいこと」「してはいけないこと」と区別する必要なく,相手が嫌がるだろうことだけを抑えられます。
ところが子どもはそんなこと百も承知です。「自分がされて嫌なことは,相手にもしてはいけません」と言われて「なるほど!そうか!」と思えるほど無知な小学生はまずいません。子どもにとっては「そんなこと,わかってる」のです。

教「なんでそんなことしたんだ」
A「遊んでいただけです」
教「遊んでいた,と言うが,もしAが同じことをされたらどうだ」
A「嫌な気持ちになります」
教「でも,Aは自分がされて嫌なことを,友だちにしてるじゃないか」
A「……」
教「これからどうしたらいいか言いなさい」
A「自分がされて嫌なことは,友だちにもしません」

このやりとりで,Aはいったい何を学ぶのでしょう。
私が教師をしていていちばん怖いと思うのはここです。
こんなやりとりが何度か続けば,Aは「自分がされて嫌なことは,友だちにもしません」と言っておけば先生は許してくれるんだな,と学ぶかもしれません。
あるいは,「自分がされて嫌なことは,友だちにもしません」とわかってはいたけれど,ついやってしまったと言えば許されるんだな,と学ぶかもしれません。

何より怖いのは,本当に悪意をもって誰かに嫌がらせをしたとしても「遊んでいただけです」と言えばこういう展開になって許されるだろう,と学ぶことです。


冒頭に書いたプロレス遊びの件は,それだけを見て「いじめ」とは言えないのかもしれません。実際に,多くの同じような事例が「遊びの延長でついやりすぎて…」とか「遊びがエスカレートして…」というような言い方で解決していきます。

しかし,そこに私たち教師はどれほどの指導をしているでしょうか。

「遊び方を考えなさい」
「ほどほどに遊ぶんだぞ」

そんな指導で子どもたちに伝わるものは,いったい何なのか。
悪質ないじめが起こったときの「言い訳」を与えてしまってはいないか。

そんなことを考えながら書きました。


…すみません,もう少し続きそうです。





ブログランキングに参加しています。「オモシロイ!」と思った方は,拍手代わりにポチッとお願いします。(クリックすると外部サイトに飛びます。お手数ですがブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください)

にほんブログ村 教育ブログ 小学校教育へ

0 件のコメント:

コメントを投稿