2012年2月7日火曜日

文章題が苦手な子どもに

「算数の文章題が苦手なんです」

保護者の方と話すと,必ずと言っていいほどこんな相談をいただきます。

こんなときによく「読解力をつけるにはやはり読書を…」とか「一文ずつ口に出して読む習慣を…」というようなことを言ってしまいます。でも,文章題の得意不得意を,読書習慣や注意力だけの問題にしてしまうのは,少し乱暴すぎる気がするのです。

文章題が苦手な人は,読解力を鍛えなさい。

今回は,そんな定説(?)に一石を投じようと,こんなおたよりを書きました。


★以下 平成24年1月27日学級だより「すきやき」より★

広場にハトがいました。 
そのうち,5羽飛んでいきました。 
また,8羽飛んでいったので,残りは17羽になりました。 
はじめ,ハトは何羽いましたか。

少し考えればわかるのですが,一度聞いただけでは大人でも「ちょっと待てよ…」と立ち止まってしまいそうな文章問題です。
17+8+5=30 で答えは30羽です。これが
広場に30羽ハトがいます。
そのうち,5羽飛んでいきました。 
また,8羽飛んでいくと,ハトは全部で何羽になりますか。

と書いてあればずっと簡単ですね。30-5-8=17 で答えは17羽。

広場にたくさんいたハトが減っていく,という問題場面そのものは変わらないのに,問題文の書き方ひとつでずいぶん難しくなります。下の文章が時間を追って流れていくのに対し,上の問題は時間を遡って考えなくてはなりません。「こういう問題を解くには国語力(読解力)が必要」なんてことをつい言ってしまいそうです。

文章を読み取る力は確かに重要です。しかし,上の問題を読んで「ふんふんなるほど,ハトが飛んでいったのだな。飛んでいく前の数を求めるには…」と読解できなければ,解けないのでしょうか。「5と8と…17をどうすりゃいいんだ?」と頭を抱える子には「もう一度じっくり読んでごらん」と言う以外に方法はないのでしょうか。

それを解決する方法のひとつが,図を描くということです。子どもたちは1年生の頃から問題文を図にしていますが,これはその活動を通して,「手がかりになる図」の描き方を学んできているとも言えます。

ところがこの問題は,とても図に表しにくい。
「(はとが)5羽飛んでいきました」を図にしようと思っても,「どこから」5羽飛んでいったのかがわからないので描きようがないのです。描きようがないのでとりあえず次を読んでみると,またもや「8羽飛んでいきました」さらには「17羽になりました」…お手上げです。

そんな描きようのない図をかくときに有効なのが,2年生でも学習した「テープ図」です。3年生ではそれをもう少し簡略化した「線分図」を学習します。その線分図を,問題文の一文ごとに描いていくこと。これが「式をたてるまでの手がかり」になるのではないかと考えています。問題文と線分図を以下に掲載します。 

     広場にハトがいました。

     そのうち5羽飛んでいきました。

     また,8羽飛んでいったので,

     残りは17羽になりました。

     はじめ,ハトは何羽いましたか。


これならなんとか「17と8と5を足すんだな」と考えられるのではないでしょうか。とはいえ,一度の授業でバッチリ身に付くものではありません。ご家庭でも話題にしてもらえればありがたいです。


★補足★


紙面の都合もありますが,あまりにもお粗末な終わり方でした。
補足させてください。

文章題が苦手な人は,読解力を鍛えなさい。

という定説(?)に投じたい"一石"は,「図を描きなさい」ではありません。
「問題文どおりに図を描きなさい」です。
この「問題文どおりに」というのが重要じゃないかと思うのです。ここで言う「問題文どおりに」というのは「問題文に書かれている順番どおりに」という意味です。


この問題,教科書には 「図を描いて考えよう」 という説明書きがあります。
その下にはこんな線分図。
文章題を読んで「ふんふんなるほど」と理解できる子は,この図を説明の道具にできます。「まず,5羽飛んでいったでしょ,次に8羽飛んでいった。それで17羽残ったんだから――」という具合に。
文章題を読んで「5羽? 8羽? うーん…」と悩んだ子も,この図を見れば,17と8と5を足せばハトの数がわかるな,と考えられます。

問題は,この図をどうやって描いたか,です。
次にこんな問題に出会ったときに,自分で図を描いて立式できなければならないからです。

文章題を読んで「ふんふんなるほど」と理解できる子は,ハトが戻ってくるところをイメージしながら,この図を「5羽」から描き始めます。次に「8羽」。それらがとんでいった後の「17羽」を描いて完成。「全部で30羽」になる図が描けます。問題文の時系列を理解したうえで,無意識のうちに時間を巻き戻したり進めたりしながら図を描くことができるのです。
ところが,「5羽? 8羽? うーん…」と悩む子はこの図をどこから描き始めたらいいのかわかりません。文章題を読んだだけでは時間の経過とハトの増減が理解できず,「問題文どおりに」描こうと思っても「もともといたハト」が描けないために「5羽飛んでいく」が描けないわけです。

そこで,今回の「線分図」や2年生で学習する「テープ図」の出番です。
線分図やテープ図を使う利点は「具体数を描かなくてもよい」ということ。ハトを1羽ずつ○で表そうとすると何羽いるかがわからないと描けませんが,線分図やテープ図なら「何羽かわからないけど,たくさんのハト」が描けるのです。
それはつまり,この問題でいう「広場にハトがいました」という一文を描くことに他なりません。そしてこのことが「問題文どおりに図にする」ための,重要な武器になることもおわかりいただけると思います。これまで,「もう一度じっくり読んでごらん」としかアドバイスできなかった子どもたちに,「問題文どおりに図に描いてごらん」と言えるようになるのです。


補足のつもりが長々と書いてしまいました。
「図を与えられれば解ける」という子が「どうしたらいいかわからん!」というときに,自分で図を描く技術を身に付けてほしいと思っています。
その技術のひとつとして今回は,「何羽かわからないけど,たくさんのハト」を描く方法について考えてみました。「未知数を未知数のまま表す方法」と言えばいいのでしょうか。

時間をとって,もう少し整理したいですね。ご意見お待ちしています。





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2 件のコメント:

  1. 最近、子どもたちと一緒に試していることがあります。

    子どもがノートで学習したことを
    完成した図でなく、わざと未完成の図を板書してもらいます。
    子どもが、黒板に出て、そこに色を付けたり、丸で囲ったり、消したりしながら、説明し、完成形に持って行くのです。

    最初から完成していると、条件や時間の経過により変わる数の関係が本人以外には、分かりにくいです。
    そこで、4コマ漫画の要領で、友達の前で図を変化させていき、最終的に完成した図に持って行かせています。

    この授業なら、
    (1)まず長い線を1本書いておきます。
    (2)「5羽飛んでいきました」と言いながら、ちょっと消してもらいます。
    (3)「また8羽飛んでいきました。」と言いながら、またちょっと消してもらいます。
    (4)それから、全体の数は、消したところと.....と話してもらうというような感じです。

    絵にするとこんな感じでしょうか?
    http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/cd/bc6d26e1c54dfbeb402d9dfafa1c22be.png?random=571b290b23591a80714362d0978e629e

    返信削除
  2. totoro様
    コメントありがとうございます。

    私の学級でも,絵にしていただいたまさにその通りに子どもたちが図を完成させました。ひとりの描き始めた図に「『5羽飛んでいきました』は右側じゃないか」とか「ここには『のこりのハト』と書いた方がいいんじゃないか」などと言いながら,です。(ちょっぴり自慢です。嬉しかったもので…)

    公開授業でしたので,見ていただいた先生方からは「書画カメラを使って子どものノートを大型テレビに映した方が…」というご意見もいただきました。しかし,私もtotoro様の仰るように「時間の経過により変わる数の関係」を図にしていく過程を大切にすべきと思います。

    ちなみに本校では啓林館の教科書を用いていますが,指導書にはtotoro様の書かれた(2)「5羽飛んでいきました」から図にする描き方が掲載されています。線分図やテープ図のもつ価値(未知数を図にできる)から考えると,この描き方にはやはり違和感を覚えます。

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